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 まだ、寒い冬の朝だった。  絹で織られたシーツにくるまれるようにして、たくさんの家臣に見守られるなか、母は静かに横たわっていた。  病魔に侵された体は枯れ木のように細く、吐く息は木枯らしのようにひゅうひゅうと掠れている。  幼いニールにでさえわかるほど明確に、死神に抱かれている母の最期の姿は痛々しかった。 「かあさま、かあさま!」  泣きながら、ニールは母……アマリエの手を取った。  皮膚は乾いて硬くなり、優しく抱きしめてくれていた名残はどこにもない。  体温は屋敷の外で吹きすさぶ風よりも冷たく感じたが、ニールはできる限りの力でぎゅっと握りしめた。途切れそうな吐息を、少しでも繋ぎ止めていたかった。  伏せられた瞼は開かれないが、ニールの声に応えるよう、アマリエの長い睫毛が僅かに震えた。 「かあさま、目をあけて!」 「ニール。大きな声を出したら、かあさまが驚くだろう」  背後から抱きしめてきた体温は、護衛兼世話役のエフレム・エヴァンジェンスだ。  大きな手でニールの銀髪を優しく撫でつけ、冷えたアマリエの手ごと、ニールの小さな手を包み込んだ。     
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