ウィーン国際ピアニストコンクール

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 なんてあるはずなく……代わりに、ザックが僕と共に会場入りしていた。  「うわー、ここがウィーン音大かー。僕もここで学びたかったなぁ!!ねぇねぇ、記念にここで写真撮ろうよ」  「断る」  「つめたっ!!じゃあさ、二人で撮らなくてもいいから僕の写真だけ撮って。メリッサに送るんだぁ♪」  スマホを押し付けられ、渋々大学名の入った銀色に光る看板の前でピースサインをするザックを写真に撮ると、無言で渡した。  はっきり言って邪魔だ。こんなことなら、一人で来れば良かった。  「えーっと、フェストザールがあるのはあの建物みたいだよ。ほらほら、レオ早くー!」  「えぇ?おい待てって!!」  走り出したザックを追いかけるように、速歩きした。  北米ツアーから帰国した時のザックは、ハイテンションでマシンガントークを繰り広げることなく、元気がないように見えたが、たぶん疲れてただけだったのだろう。  いつもの調子ではしゃぎまわるザックに呆れながらも、どこかで少しホッとしている自分もいた。
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