ウィーン国際ピアニストコンクール

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 僕と一緒に出場者受付に向かおうとしたザックは、途端に大勢の人間に囲まれてしまった。  「ザッカリーが会場に来るなんて、知らなかった!」  「私、ファンなんです! 今日の演奏、ぜひ聴いて感想を教えてください!」  「今日のコンクールなんですけど、僕のこの演奏曲、どう弾くべきかアドバイスください!」  ザックのファンへの態度は神対応だと評判だ。ファンでない奴に対しても邪険に扱うことなく、丁寧に答えてやっている。   身動きが取れなくなったザックは、遠目に眺めていた僕に向かって大きく手を振った。  「ごめーん、この子たちとちょっと話してから会場に戻るから、一緒に行ってあげられないけど、頑張ってねぇ!!」    ザックの呼びかけに、一斉にこちらに視線が集中する。そこには、明らさまな嫌悪の視線も含まれていた。  ったく、あいつ……声がでかいんだ。  返答もせず、つかつかと受付へと向かった。
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