ウィーン国際ピアニストコンクール

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 出場者受付を済ませてからユースB部門の控室に入ると、第1次予選ということもあり大勢の参加者で溢れ返っていた。  第1次予選といっても、その前に動画による審査によって選出されているので、聞くに堪えないレベルの奏者はいない。  譜面をずっと睨んでいたり、譜面を床に置いて紙の上で指を動かしたり、じっと目を閉じてイメージを浮かべたり、祈りを捧げていたり……中には友達同士で喋ってる奴らもいるが、皆一様に緊張の顔を浮かべ、ピリピリした空気が控室に漂っていた。  この、コンクールの控室の空気が重苦しくて、堪らなく嫌だ。  国際コンクールということで、ヨーロッパだけでなく、アジアや中南米からなど、世界各地から参加者が集まっている。  そういう僕もウィーン在住とはいえイギリス人なので、外国人ということになるだろう。  「よう、また会ったな」  肩をポンと軽く叩かれ、嫌な予感を胸に振り返ると、会いたくない顔が目の前でニヤけていた。  こいつもいるのか……
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