ウィーン国際ピアニストコンクール

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 会場にはもう一人、気になる奴がいた。  今日も会場の片隅でヘッドホンをつけて目を閉じ、指を絶え間なく動かしている。  前回のコンクールで優勝した、リオンだ。日本人だが、僕と同じようにウィーンに留学で来ているらしい。  アジア人にしては白い肌に黒髪、ブラウンとグリーンが合わさったようなヘーゼルよりも濃いモスグリーンの深い二重瞼の瞳はヨーロピアンとアジアンがうまくミックスされていて整った顔立ちをしているが、それを重い前髪とでかい黒縁眼鏡で隠している。  彼は、オーストリア人と日本人のハーフだ。  多民族が暮らすヨーロッパではハーフやクオーター、ミックスなど珍しくないどころか、祖先を辿っていけば様々なバックグラウンドの人種や民族が混ざり合っていることなどざらだが、島国である日本では、シューイチやリオンのような異国の血が混ざっているのは、国際化が進んでいるとはいえ、珍しいことなのだそうだ。  リオンは陰気で誰とも話さず、コミュ障って感じだが、コンクールの演奏では正確なフィンガリングに加えて高い技術力、そして表現力を兼ね備え、そのギャップに驚かされる。  前回のコンクールでは、圧倒的な差をつけられて優勝を攫われた。
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