ウィーン国際ピアニストコンクール

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 「おい、リオン」  シュテファンがリオンのヘッドホンを右耳から外し、上から見下ろし、顎を突き上げて尊大な態度で声を掛ける。  リオンは重い前髪で瞳が隠れたままシュテファンを見上げたが、彼に文句を言うことはしなかった。  「今回のコンクールでは絶対に俺が優勝してやるからな。見とけ」  リオンはドヤ顔のシュテファンから顔を逸らしてから、僕の顔をじっと見つめた。  ん……なんだ?  だが、無表情のまま何も言わず、再びヘッドホンを元に戻した。  外されたヘッドホンから聴こえていたのは、 ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト作曲、「ピアノソナタ第11番 イ長調 K.331」、通称「トルコ行進曲付き」だった。  難易度でいえば、僕の演奏する『テンペスト』の方が上だ。  ノーミスで演奏すれば、予選通過だけではなく、審査員の僕に対する高評価も期待出来る。  静かに闘志が湧いてきた。
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