ウィーン国際ピアニストコンクール

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 シュテファンの指が、鍵盤に掛かった。  激しく連打さえる不協和音の衝撃で、演奏が幕を開ける。  ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン作曲、「ピアノソナタ第23番へ短調 作品57」通称「熱情(アパショナータ)」。  ベートーヴェンの三大ソナタの1つであり、僕の演奏した「テンペスト」よりも、難易度は高い。  ベートーヴェンの最高傑作のひとつに数えられているだけでなく、本人もこの曲の出来に満足し、内容を気に入っていたため、当時他のジャンルについては創作意欲があったにも関わらず、ピアノソナタには4年間も手をつけなかったという。  「熱情」という通称はベートーヴェンによるものではなく、ハンブルクの出版社が出版の際に名付けたものだ。  その名の通り、ドラマティックで燃えるような激しい曲調を特徴としていて、挑戦的なシュテファンらしい選曲だ。
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