ウィーン国際ピアニストコンクール

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 最終楽章である、第3楽章「Allegro ma non troppo-Presto」。    第1主題の16分音符の奔流は、途切れることなく疾走する。  切迫した雰囲気で迫ってくるこの部分はスリルとサスペンスを感じさせ、いつも聴いていてゾクゾクさせられる。  だが、シュテファンの演奏からはそれが感じ取れない。    何が、違うんだ……ミスタッチはあるし、音がしっかり響いていないものもあるが、それほど際立っているわけではないし、ほぼ譜面通りに演奏出来ているのに。      劇的に盛り上がっていく曲調。  鍵盤を強く叩きつけてはいるが、彼の指から弾かれるメロディーからはベートーヴェンの激しい『熱情』は伝わって来ない。  美しくて哀しい、切なくて胸が苦しいけれど、それでも聴かずにはいられないような、あのベートヴェンのピアノ・ソナタが僕の胸に突き刺さらない。 
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