ウィーン国際ピアニストコンクール

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 彼女の盛大な拍手につられてまばらな拍手が続き、シュテファンはその女に向けて笑みを浮かべるとお辞儀をした。  な、なんだ……  惚けていると、リオンがボソッと呟いた。  「シュテファンの母親だ。   コンクールには必ず顔を出し、いつも審査員席の後ろを陣取る。」  ロンドンにいる時にも、演奏者本人よりも張り切っている熱心な母親がたくさんいた。  予選会場が幾つかに分かれている時にはどの会場が有利なのか下調べし、審査員の好みの曲の傾向を考慮して選曲し、今回のコンクールでも審査員から直接指導が受けられる機会が設けられたが、それをチャンスとばかりに必死に自分の子供を売り込む。  そんなことをしたって、実際の審査に影響することなどないのに。  それでも……何かせずにはいられないのだろう。  シュテファンの母親は、どうやらそういったタイプの人間らしかった。  それは、子供というよりも自分のエゴの為のように感じた。
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