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ピアノ椅子を調整してから座ったリオンは、徐に胸ポケットから何か取り出すと、髪に付けた。
顔を上げたリオンの前髪にはヘアピンが止められていて、仏頂面とは恐ろしいほど似合わない。
なんか……面白い奴だな、あいつ。
姿勢を正し、背広のボタンを外したリオンの瞳の色がガラリと変わる。
その真剣な眼差しに、奏者としての彼はどんな演奏を聴かせるのか、一気に期待が高まった。
フッと短く息を吐いて鍵盤の上に広げられた手に、一瞬視線が釘付けになる。手を広げた大きさは、顔の大きさとほぼ同じになるが、リオンの場合はずば抜けて手の方が大きい。
シューイチもそうだが、リオンの手もまた、ピアニストになるべくして生まれたような美しい手をしていた。
リオンの指先が滑らかに流れ、誰もが耳に聞き覚えのある『トルコ行進曲』の軽快な旋律が、華やかに会場を満たしていく。
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