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コンクールまでもう時間がないということで、早速シューイチが多忙なスケジュールの合間を縫って、僕の演奏を見てくれることになった。
「まずは、第一次予選の課題曲からですね。
ユースBは、ウィーン古典派のソナタから1曲ですが……何を選んだのですか?」
シューイチがピアノの前に座る僕の横に立った。彼からはふんわりと大人の男性の香水が匂ってきて、それに自分が包まれているのだと思うとドキドキした。
「ベートーヴェン ピアノソナタ第17番二短調 作品31-2の第3楽章です」
「『テンペスト』、ですか。
私と同じ曲を、選んだのですね」
シューイチの言葉に、顔が熱くなる。
そう。この曲は、シューイチが13歳の時にウィーン国際ピアニストコンクールで優勝した時に選んだ課題曲だった。
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