コンクールに向けて

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 シューイチの細く長い指が鍵盤に触れた瞬間、雷に打たれたような衝撃が僕の躰を貫く。  どうしたって、引き摺られてしまう。  圧倒的な、シューイチの嵐のような絶対的な演奏の渦に、呑み込まれていく。  16分音符で流れるように始まる第1主題。  くるくると舞い落ち、また風に吹き上げられ、美しい螺旋を描いていく花弁のような流麗な旋律に引き込まれる。    強弱と緩急をつけながらも流されるのではなく、自分の意思を持って流れていく曲調は、繊細でありながら強く、逞しく輝いている。  強くかき鳴らされるメロディーに胸を掻き毟りたくなるような衝動に襲われ、優しく繊細で胸の奥響くにまで響くメロディーは、僕の琴線を何度も弾いては打ち震わせる。  シューイチのメロディーが僕の胸いっぱいを満たし、息が詰まったように苦しくなる。
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