コンクールに向けて

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 僕はシューイチに少しでも追いつきたくて、常に彼の後をついて回り、彼の演奏スタイルからフィンガリング(指遣い)、強弱のつけ方など全て真似をした。  それから、シューイチが毎朝通っているジムにも行き、そこでトレーニングも始めた。  今までピアニストとして大切なのは腕から指先と脚の力だけだと思っていたが、腰を鍛えることも大事なのだと知った。  モルテッソーニが引退を決めた理由の一つは腰を痛めたからだと聞いたことがあったし、他のピアニストでも同様の話を聞いたことはあったが、僕はそれは単に歳のせいだろうと鼻で笑っていた。    シューイチが更衣室でシャツを脱ぐと、引き締まった体躯にうっすらと筋肉の美麗なラインが浮き上がる、およそピアニストとは思えないような完璧なボディラインの彼の裸体に思わず目が奪われた。  呆然と立ち尽くしていた僕に、シューイチはタオルを投げた。  「何をしているのですか。さっさとシャワーを浴びて下さい。先に帰りますよ」  「あ、待ってシューイチ!すぐに浴びるから!!」    シャワーカーテンの向こうに消えた彼の隣に入り、壁越しに聞こえるシャワーの音に先ほどのシューイチの裸体が思い浮かび、体が熱くなる。  そんな、彼への欲情を必死に鎮めた。
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