バレンタインデーの奇跡

2/7
前へ
/18ページ
次へ
 そんな腐れ縁の俺達に転機が訪れたのが、その年のバレンタインデーだった。  当時は色川の友人で、今は俺の女房(にょうぼう)になっている理恵(りえ)は、突然俺をキャンパスの一角へと呼び出して、丹精込めて作ったであろう綺麗にリボンで飾られ包装された、イニシャル入り手作りチョコレートを手渡すと、なんと俺に愛の告白をしたのだ。 「あの、呼び出したりしてごめんね。飯田(いいだ)靖耶(やすや)君だよね?」  幾分(いくぶん)舌っ足らずな言葉使いで、恥ずかしそうに俯きながら差し出されたチョコレートの箱に、俺は一世一代の運命的の出会いを感じていた。  とはいえ、当たり前と言えば当たり前なのだが、生まれてこの方、一度も異性と付き合ったことも、ドラマでよく見掛ける男女の恋愛模様的会話さえも、俺はこのときが初めての経験だったのである。  
/18ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加