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「瀬戸くん、あの場面で点入れるなんてすごい! おめでとう」
「ありがと! いやあ、いつもサポートしてくれるミワちゃんのおかげだよ」
ギッコン。
シーソーが傾く。私は少し空へと舞い上がり、ミワはゴールである地表へと一歩近付く。シーソーの反対側に座るミワは、ニヤリと笑っていた。私は瀬戸くんとミワの楽しそうな会話を見ながら、ベンチでため息をつく。
「ああ、バレンタイン、憂鬱かも……」
「バレンタインがなんだって?」
私の独り言を拾い上げたのは、タッキーだった。
『滝本』だからタッキーだ。先程の瀬戸くんの決定点をアシストしたらしい。……私は見逃してしまったが。
「あ、タッキー、おめでと。よきアシストだったわ」
「お前、その言葉心こもって無さすぎだろ。俺たちがゴール決めた瞬間、お前が虚空を見つめていたの見てたぞ。アユミにミワ、二人して瀬戸ばっかりちやほやしやがって。均等に接しやがれ。サッカー部マネージャーの風上にも置けないやつだな」
贔屓しているのがモロバレである。でもいいのだ。
スポーツドリンクが入ったみんなのボトルをカゴに入れ、私は立ち上がった。タッキーにも彼用のボトルを渡す。タッキーはニヤニヤと聞いてきた。
「で、バレンタインが何? 今年もサッカーボール型チョコみんなに配るんだろ? 楽しみ楽しみ」
「今年はそれとは別に、本命チョコも作るんだよ。サッカーボール型チョコ、雑になっても怒んないでよね」
私は言い捨てると、瀬戸くんの元へ駆け寄った。
「瀬戸くん、おめでと! はい、飲み物。いやいや、素晴らしいゴールだったわ」
「出たー、ミワとアユミの瀬戸贔屓!」
みんながケラケラと笑う。でも今日は流石に瀬戸くんの活躍は大きく、贔屓にしても仕方がない。こんな調子でも、なんだかんだ私もミワもみんなから愛されている。だからマネージャー業は楽しかった。
「ありがと! いやあ、いつもお世話になってるアユミちゃんのおかげだよ」
ギッコン。
シーソーはまた水平を保つ。私とミワはまた同じ高さとなる。私はシーソーの向こう側に座るミワに、ニヤリと笑いかける。
バレンタインまであと一週間。
私は他のみんなにもボトルを渡しつつ、瀬戸くんのことばかり考えていた。
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