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その日は夕方から、私の心を表すかのように雨が降り出していた。
置き傘を先日家に持って帰ってしまったことを思い出す。私はぼんやりと下駄箱に立ち竦していた。
バレンタインが憂鬱になってきていた。冷蔵庫に眠っている、ラッピングされた特大サッカーボール型チョコレート。下手くそだけれど、頑張って作った本命チョコ。帰ったら食べてしまおうかと思った。
アヤノちゃんは同学年の中でも評判のかわいさだ。いつもおっとりしていて、つぶらな瞳はチワワのようで、天然パーマだというふわふわの髪はお姫様のようだ。勝算の無い勝負に出て、今後バレンタインが来るたびに振られた思い出を引きずるのはちょっと怖い。
「入ってく?」
後ろから話しかけられ振り返ると、瀬戸くんが立っていた。
今日は部活は休みの曜日だ。今までこんな風に偶然会ったことがなかったので、私は驚いて言葉を失った。瀬戸くんは傘立てから自分の傘を取ると、ばさりと開く。
私が黙っていると、瀬戸くんは微笑みながら傘を向けてきた。
……入っても、いいの?
彼女がいるんじゃないの?
もし見られたら、よくないんじゃないの?
そんな疑問がよぎったが、全て消し去った。
瀬戸くんは基本ジェントルマンだ。女の子には誰にでも優しい。だけど。
「傘忘れたんでしょ。確か家、同じ方向だったよね。行こうよ」
ギッコン。
シーソーが動く。
私は頷いた。
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