所長と助手

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しかしせめて怒っていない事だけでも伝えようと笑って見せたが、照れ臭さが先立って苦笑になる。 「まぁ、大丈夫。わかってるから」 そう言ってドアの前から退く佐々木。応接ソファーの辺りまでくると志岐の方を向き直り右手をかざして見せた。 「志岐君は、これを心配してくれたんだろ?」 異形の手が隠れているそれを人の手で指差す。その様子に志岐は申し訳なさそうに「はい」と頷いた。 「佐々木さんが、何となく右手を庇っているように見えたので、その…我慢してるんじゃないかと思ったんです」 おずおずと答える志岐は知っているのだ。佐々木の中に眠るそれは、時より宿主の意思を受け付けなくなる。そしてあの真っ黒な妖しを抑え込むのに佐々木が如何に苦労しているかを。 「…う~ん。上手く隠せていると思ったんだけど、俺もまだまだだなぁ」 佐々木はまたもや苦笑する。実際の所、守谷に見せた後からずっと佐々木の右手は微かに痙攣を続け上手く力が入らない状態だったのだ。しかし佐々木の表情からは右手の異変に気が付く事は出来なかった。間近で見てもそんな素振りは無かっただろう。志岐は正しく佐々木のその状態を見抜いた訳ではない。無意識に右腕に触れる仕草がいつもより増えていた。そこに何となく違和感を覚えて佐々木に詰め寄るに至る。佐々木は気遣いで体の不調を隠したがるが、それがかえって志岐の心配を煽っている事に気が付いていないのだ。 バレては仕方無いと素直に白状する。
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