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もう限界だといわんばかりの張り詰めた声に、優奈はようやく自分の行いのせいで瑞生を傷つけ、苦しませていることに気がついた。
嫌われたくないと、彼から離れようとして。ひとを傷つけたくないと、苦しめたくないと生きてきたはずなのに、自分は今、自分のためにひとを傷つけ苦しめていたのだ。
「ごめん、なさい、私……」
「謝罪など、聞きたくはない。俺が聞きたいのは……っ」
――ああ、これは全部私のせい……。
こんな顔を、させたいわけではなかったのに。
嫌われたくない、嫌われたくない。けれど、そうやって自分を守るために瑞生を傷つけるなど、あってはならないことだ。
怯え、震え、滲んでしまう視界。
彼も今、自分と同じように泣いているのだろうか。
手首を掴んできている瑞生の手が小刻みに震えており、優奈は胸が張り裂ける思いに打ちひしがれた。
「私、は……」
懸命に出している今の声はきっと、情けないくらいに震えてしまっているだろう。
こぼれ落ちそうな涙を堪え、じぃんと痛む鼻の奥に堪え、優奈は自分の胸の内を白状した。
「怖かったんです。瑞生さんに嫌われてしまうことが、怖くて……」
瑞生が、息を呑んだことがわかった。
彼の顔を直視できることができず視線を外したままの優奈は、カタカタと噛み合わない歯を疎ましく思いながら、言葉を紡ぎ続ける。
「私、鳴瀬さんに……」
怖い。怖い怖い怖い。
もっと早くに……そう、瑞生のことが好きだと認める前に言えていたら、こんなにも恐ろしく思わなかったかもしれない。
――後悔したって、遅いのに。
言うことによって、お願いされていた期間よりも早く瑞生から離れなければならなくなってしまうかもしれないと、いいや、きっとそうに違いないんだと思っている優奈は、悲痛な声で告げた。
「身体を、触られて……。最後まで、されそうになって。……私、私っ」
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