第3章 偽りでつくられた関係

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「まだ寝ていなかったのか……?」  上半身を起こしている状態の瑞生を、優奈は見上げる。暗闇に目が慣れていたからか、彼の姿をぼんやりと見ることができた。  いつも片方に集め、軽く上げられていた瑞生の前髪が落ちている姿に、目をぱちくりとさせる。  とても、若く見えたのだ。 「瑞生さんって、その、おいくつなんですか?」 「は……?」 「あ、えっと、二十六、七くらいに見えるのですが話し方とか雰囲気とかは三十路過ぎていそうだなって……」  女性社員たちが騒いでいたような気がするが、いつもあまり興味がなく流し聞きしていたため、優奈は彼の年齢を知らない。 「……三十だ。過ぎてはいない」 「えっ!? そうなんですか……?」 「嘘をついてどうする。それと、きみはもうてっきり知っているものだと」 「ごめんなさい、彼氏もいましたし瑞生さんの話題にあまり興味がなくて」  だから優奈は堂本グループの傘下である会社に勤めているのに、瑞生のことが分からなかったのだ。  そういうことだったのかと納得している様子の瑞生に、優奈は申し訳なくなった。それに、失礼な言い方をしてしまったと反省する。 「きみは二十三だろう?」 「な、何故知っているんですか?」 「社長からきみの情報をもらったからな。……彼に耳打ちした時、きみはこちらを見ていたような気がしたんだが?」  ぼおっと見ていたあの時に、こちらの情報を聞いていたということか。  それならば家の住所を知っていたのは、なにも不思議ではない。    ――私の情報を……ということは、もしかして電話番号とかメールアドレスとかも知っているの!?  自分の知らぬ間に、それは嫌だ。  さっと血の気が引き、勝手に唇が震えてしまった。 「私のスマホの番号」 「当然知っている」 「そ、それって犯罪」 「部下の電話番号を知るのは犯罪にはならないし、仮にそうなるとしても俺の場合、訴えられはしない。皆堂本財閥に睨まれたくはないし、きみもそうだろう?」  これは脅しというのではないだろうか。  文句を言いたくても言えない状態の優奈は、奥歯を食いしばることしかできなかった。  そうしていたら、もう寝ろと言わんばかりに背をベッドに預けた瑞生に抱き締められ、すんすんと香りを嗅がれる。  すると途端に体中が熱くなり、優奈は息を詰めた。  この状況は、恥ずかしすぎる。羞恥心でいっぱいで、涙が出てきそうだ。 「いい匂いがする。……優奈、この同居と婚約者の件は当分秘密に。まあ、別に言っていいのであれば」 「駄目です! 絶対に、駄目です……!」  
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