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これ以上、自分に近づいて欲しくない。
支えてくれている瑞生を押し退けたからか、驚いて話すのをやめた彼に優奈は切なげな顔をして、自分の身を、心を守るように胸の辺りをきゅっと掴んだ。
近い将来関わることがなくなるひと。だから、そんなひとと距離を縮めるのはきっと、つらくなってしまうだけだ。
「……そうだとして、それがなんだというのでしょうか」
これは自分を守るための発言である。
臆病で卑怯な人間で、本当に嫌になると優奈は目を伏せた。
うじうじとしていて腹立たしいし、だが、恐怖から一歩前に踏み出すことができなくて、逃げるために瑞生を突き放そうとする。
それなのになんでもないふうに頬をつつかれ、優奈は驚愕のあまりフリーズしてしまった。
「きみは、頑固だな」
――どうして、そんな優しい瞳で見てくるの……?
初めて出会ったときの瞳となにも変わらない、柔らかくて温かい眼差し。
――痛い、痛いのに、なんで……
胸が締め付けられ、それなのにそれとは相反しトクンと波打つ鼓動に優奈はなんともいえない表情を瑞生に向けた。
すると彼の喉が上下し、遠慮ぎみに輪郭をなぞられ呆けてしまう。
「優奈……きみは、俺を煽るのが本当に上手いな。どこにも、行かせたくなくなる」
苦しさに喘ぐように絞りだして言う瑞生が、ぐっと唇を噛み置いていた紙の束を手に持った。
今二人でいると駄目だとでも言うかのように自分の横を通り過ぎ、内鍵を回した彼に振り向かれ、優奈は話しかけられる。
「鳴瀬の前で酔わないように気をつけてくれ。それと、あとできみに電話をかけておくから、帰るとき連絡するように」
飲むなと言わないのはきっと、こちらにも人付き合いというものがあると理解してくれているからなのだろう。
電話をさせるのはおそらく、飲むのを許すんだからそれくらいはして欲しいとの意であるのだろうと把握した優奈は、おとなしく頷いた。
「は、い。わかりました」
「……さて、と。だいぶん時間が過ぎてしまったな。鳴瀬が待っているんだろう……?」
「あっ、は、はい!」
「すまなかった。……だが、その。優奈、こっちに来てくれるか?」
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