[3:時東はるか 11月19日7時5分]

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「あれ、なんだ。凛、いないのか」  もう帰ろうかな、本当に鍵をポストに入れて帰っていいものだろうかと思い悩んでいた時東の前に現れたのは、若い男だった。これが田舎と言うべきなのか。南が閉めていなかったらしい玄関から勝手知ったるとばかりに上がり込んできた男は、時東の業界でよく見かける雰囲気の持ち主だった。  目立つ格好をしているわけでもないのに、華のある美形。時東は、自分は雰囲気イケメンの部類だと自認しているが、この男は正真正銘の美形だ。 「ええと」 「あ、どうも、初めまして。春風です。凛ちゃんの幼馴染みなの」 「南さん、凛ちゃんって言うんだ」  似合わないと思ったのが顔に出たに違いない。春風と名乗った男が相好を崩した。顔に似合わない気取らない笑い方に、何となく南の友達だと言う気がしてきた。時東に必要以上に興味を示さないところも含めて。 「似合わないでしょ。凛太朗だけどね。凛って呼ぶと嫌がるから呼んでるだけ」 「まぁ、……そう、かも」 「でしょ? この間も、あいつ、店で近所のおっちゃんに、大声で凛ちゃん呼ばわりされたらしくてさ。おかげで子どもに爆笑されたって根に持ってたから、今のタイミングで呼んだら間違いなくしばかれると思うよ」 「気を付けます」  簡単に想像が付いた未来に、時東は苦笑して首を振った。そして丁度良かったと立ち上がる。良いタイミングだ。
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