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南食堂のテレビは、平成を二十八年も過ぎようとも、昔から変わらぬブラウン管型だ。古き良きテレビ台に納まって食堂の片隅に鎮座しているそれは、日中は情報番組に固定されているが、営業時間外の今は民放の人気バラエティがついていた。
しかし、なんでこんなことになったかなぁ。テレビ画面に映し出された見慣れた自分の店に、南は現実逃避よろしく物思いに耽る。
その間にも、テレビのカメラワークは、見慣れた食堂内部をぐるりとおさめて、カウンターに座っている男に寄っていく。いかにも芸能人でございと言った華のある顔。愛想の良い笑みを浮かべているそれは、けれど、どこかつまらなそうだ。
隠せてねぇぞ、こんな田舎に来たくなかったんです、みたいな空気感。確か、そんなことを思っていたはずだ。このロケを受けた折。カウンター越しに、店主としてその男に接しながら。男の顔から笑顔が消えたのはそんな瞬間だった。
ぎょっとした南もお構いなしに、男は、おにぎりとその南とをかわるがわるに凝視している。そして、愛想笑いを吹き飛ばした真顔が、ずいと近づいてきた。
いや、ただの塩にぎりだったんですけど。そんなに都会の芸能人様のお口には合いませんでしたか。なんて再び心の中で毒づいているうちに、ますます顔が近づいてくる。さすがに近すぎないだろうか。と、多少は困惑した記憶はあるのだが、画面の中の自分はいっそ笑えるほどの仏頂面だった。
「ねぇ、ちょっと、南さん。俺と結婚してくれない?」
「死ね」
ブラウン管から響く自分の声とひとり言とが見事に被った。勢いそのままテレビを消すと、カウンター席から情けない声が上がる。
「ちょ、ちょ、南さん! なんでそんなに冷たいの! 俺だよ? 世間のアイドル、時東はるかのプロポーズだよ?」
「アイドルなのか、おまえ」
「いや、ごめんなさい。違います。ミュージシャンです」
「その割にはバラエティに良く出てるよな」
別に見てはいないけれども。南の言葉に時東の顔がぱっと華やいだ。
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