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「お帰り、南さん。――あ、おでんだ」
南が手にしていたそれに、時東の顔が自然と綻んだ。タッパーに、缶ビールが二本。
「まだ温かいから、このままで良いだろ。おまえ、もう泊まってくよな? 酒飲める?」
「へ?」
「へ? って、おまえ、このあと東京まで戻るつもりだったの? 明日、朝から予定ないんだよな」
眼を瞬かせた時東に、南はさも不思議そうに答えを待っている。座りが悪くなったのは、時東の方だった。
「なんと言うか。南さん、不用心だな、と。俺が悪さしたら、どうするの?」
「俺よりどう考えても金持ってそうなのに?」
「分かんないじゃん、そんなの」
「なに。おまえ、まさかその年でギャンブルとかで、資産食い潰してんの?」
「いや、してないけど」
そこはさすがに否定しておきたい、人間的な信用の意味で。首を振った時東に、南は「なら良いだろ」と缶を一本、時東に突き出した。
「あんまり無理な運転するなよ、おまえ。若いつもりか知らねぇけど。必要ないなら午前様に単車転がすなって」
「いや、……うん、仕事柄、普通の人より安全運転には気を付けているつもりだけど。まぁ、そうだね」
もごもごと応じて、でも、まぁ、あれだな、と時東は納得することにした。俺より、ずっと南さんの方が強そうだもんな。自分の方が身長は一応高いが、ガタイはそう変わらない。だがしかし、腕相撲でもすれば、かなりの確率で自分が負けるような気がしてならない。
缶ビールを受け取って、時東はへらりと微笑んだ。いっそのこと、俺の笑顔で南さんが女の子みたいに絆されて、もっといっぱい料理作ってくれたらなぁ。あわよくば俺の家まで持ってきてくれたりしたらなぁ、と。詮無いことを妄想しながら、缶を軽く持ち上げる。
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