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「ね、ね、乾杯しよ。南さん」
「乾杯? 何に?」
面倒くさそうに缶のプルトップを開けて、南が視線を上げる。睨んでいるわけではないのだろうが、睨んでいるように見える。よく言って目力の強いタイプだ。とどのつまり、目つきが悪い。
客商売に向いていないんじゃないかと、初めて見たときには思ったが、南の店は何故だかひどく落ち着く。過剰な干渉もサービスもなく、かと言って放置されているわけでもない。自分のペースで過ごすことが出来る空間は、少なくとも時東にとっては居心地が良いのだ。
「じゃあ、南さんに」
有無を言わせず、かちんと缶を当てに行って、そのままビールを一口含む。そして瞠目した。味がする。南の手作りじゃないのに、味がした。苦みがあった。
「なんで俺だよ」
納得のいかない顔でぼやいている南をまじまじと見つめて、時東は呟いた。
「いや、やっぱり南さん、俺の神様だわ、ガチで」
頭大丈夫か、おまえ。と言わんばかりの視線にも、時東の笑顔は崩れなかった。神様だと思えば、何の支障もない。そうか、この人と食べれば味がするのか。
それは間違いなく世紀の大発見だった。
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