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古今東西、同じ名称の食べ物でも地域が変われば味が変わる。最たる例は雑煮だと思うが、おでんもそうであったらしい。近しい親戚がみな関東圏である時東からすれば、南の家で食べたおでんは、ちょっとした新世界だったのだ。
「どうしよう、これ」
「いや、全部、こっちで処理しても良いんですよ? 基本的に皆さんそうしてらっしゃるんですから。変なところで真面目ですよねぇ、悠さん」
段ボール箱の山を前に唸った時東を、台車にせっせとそれを積み上げながら岩見が笑う。
「まぁ、悠さん、あのラジオ、テンション高かったですもんねぇ。あちらさんとしても嬉しい宣伝だったんでしょうね。はい、一箱どうぞ。お好きなら、もう一箱持って帰ります?」
「いや、……一箱で良い。大丈夫。あとは岩見ちゃん、悪いけど処理しといてくれる?」
ご当地おでんセットの詰まった箱を手に、時東はへらりと微笑んだ。南が作ったものであればいざ知らず、味のない食べ物を二箱は厳しい。そもそもとして、譲り渡すような知人もいない。
「もちろんです。お疲れ様でした、悠さん。今日はこの後、オフなんですからゆっくりして下さいね」
岩見に見送られて、事務所の駐車場に向かう。後部座席に箱を置く。先だって聞いたばかりの南の母親の出身地が記載されているそれを一瞥して、どうしようかなぁ、と時東はもう一度考えた。
いかんせん、味の分かるものを食べたのが優に二週間ぶりだったもので、あの日はテンションが突き抜けていたのだ。そして未知なる体験だった生姜醤油の効いたおでんも、想像以上に美味しかった。おまけにビール付き。味のある晩酌も大変久しぶりで、繰り返しにはなるが、時東のテンションは高かった。
そしてその勢いで出演したラジオの生放送で、熱く魅力を語った結果がこれである。
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