[4:時東はるか 11月24日10時46分]

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「置いといても良いけど、そのまま忘れそうだしなぁ、俺」  関係者から「宣伝ありがとうございます、お礼に……」とばかりに事務所宛てに配送されてきたご当地おでんセット。一箱を自分でもらい受けたのは、時東なりの誠意だ。だが、しかし。 「あ」  そこまで考えて、そうだと時東は思いついた。時刻は十時五十分。本日は、南食堂の定休日である木曜日。ではあるが、南の家を今の自分は知っている。そして、オフである今日この後の予定はない。 「結局、この間のお礼も言えてないし」  言い訳がましく呟いて、ひとまず自宅に向かうべく、時東は運転席に乗り込んだ。家に戻って、バイクに乗り換えて、また出かけよう。南家にお裾分けを届けに。 [4:時東はるか 11月24日10時46分]  向かう風は冷たいが、口笛を吹きたいくらい機嫌が良い。空は晴天。気温も多少は肌寒いが、まだ快適。おまけに久しぶりの丸一日オフデー。そして向かう先は、南家だ。 「南さーん。あれ、居ない?」  店を素通りして、数日前にお邪魔させて頂いた南家のドアベルを鳴らす。返ってこない反応に肩を落としてみたものの、よくよく考えれば居なくても何ら不思議はない。  目つきは悪いが男前の部類だと思える顔だし、何より面倒見が良く、いかにも情が厚そうだ。彼女の一人や二人、――いや二人いたらおかしいか――、居てもおかしくはない。そして定休日の日に遊びに行っていると言うのも有り得る話だ。 「……気にくわない」  って、気に食わないってなんだ、気に食わないって。よろしくない思考回路に、時東は門扉の前で思わず天を仰いだ。箱を抱えたまま立ち尽くすこと約二分。物は試しだと町道に向かって踵を返した。もしかしたら、店に居るかもしれない。  ヒゲシロスズの呑気な鳴き声が至る所から響いている。なんて長閑さだ。時東のいる業界と比べると、格段に時間の流れがゆったりとしているように思える。
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