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「こっちにも居ない、か」
半ば以上分かっていたことではあるが、実際にいないとなると少なからずダメージを受ける。南食堂の前には、そっけない『定休日』の木の札がかかっていた。年季が入っているそれは、南が店を継ぐ前からのものかもしれない。
となれば、家の前にでも置いて引き返すしか手は残されていない。こうなると、メールアドレスも電話番号も知らないのは不便だなぁと思うが、知りたいかと問われると悩むところだ。この距離感が心地の良さの秘訣かもしれないなぁとも思うのだった。
南食堂を後にして、また南の家まで戻る。南食堂の周辺は目立つ建物はなく、田園が続いている。
自然の中を行く時東の足が止まったのは、緑色の中で蠢く白が目に付いたからだった。
――って、なんだ。頭にタオル巻いてるだけか。
新緑豊かな田んぼの中に人がいた。どうも草刈りに精を出しているらしく、見ているうちに、みるみる茶色い部分が増えていく。案外、若いのかも。こんな田舎にも若い人いるんだなぁ、なんて。推察を楽しみながらしげしげと見下ろしていると、件の人物がひょいと顔を上げた。
「南、さん?」
「あ? 何やってんだ、おまえ」
確かに、段ボール箱を抱えてのその歩いていた自分は、「何をやっているんだ」かもしれない。
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