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「いや、ちょっとお裾分け? と言うか、南さんは何をやってるの? 南さんの畑?」
「田んぼな、これ。休耕地だけど。近所のばあちゃんの田んぼなんだけど、今、継ぐ人もいなくてな。俺が暇なときに草刈ってるだけ」
「草刈機とか使わないんだ?」
「なんで動くと思ってんだ。金かかるだろうが」
呆れたように口にして南が立ち上がった。頭に巻いていたタオルを外して、乱暴に汗をぬぐっている。
「それ?」
「え、あ、うん。あの、この間、ラジオで南さんのおでんのこと話したら、ご当地おでんセットが大量に送られてきたの。だから、お裾分け」
「あぁ、おまえ、えらいハイテンションだったもんな」
「……え?」
「うちの家、先に行ってるか? こっち、もうちょっと時間かかるんだわ」
ひょいと田んぼから放物線を描いて飛んできた鍵が、きれいに箱の上に落ちた。相変わらずなんて雑さだ。おかげで、「南さん、俺のラジオ聞いてるの?」と言う疑問を呑み込んでしまった。まぁ、良いか。代わりに時東は目を細めた。
「見ていても良い?」
「別に良いけど、楽しくもなんともねぇぞ」
言うなり南はまたしゃがみ込んだ。サクサクと雑草を刈り取るリズミカルな音がヒゲシロスズの鳴き声と混ざる。なんだか良いなぁ。時東はあぜ道に座り込んだ。やっぱり、良い天気で、良い景色だ。
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