2.Re-The First Night

6/24
前へ
/29ページ
次へ
「優奈。ちょっとこれ、かぶってみ?」 「えっ」 何気なく入ったショップで、 いきなり頭に乗せられたウサギの耳のついた被り物。 「……ヤバいくらい似合うな」 私をまじまじと見ながら、真顔で呟く。 「ちょ、恥ずかしいよ。いい年だし……。 私がかぶるんだったら、達己もかぶってよね。 じゃあ、 うーん。やっぱりオオカミかな」 「オオカミかよ。もっとカッコいい王子様系ねぇの?」 王子様って。 いたって真剣に言うから、笑いが止まらなくなってしまった。 私は、ショップの中からオオカミの被り物を見つけ、達己の頭に乗せてみる。 怖くはなくて、イケメンオオカミ。 「うん。オオカミ、似合う!」 「ふぅん、じゃいいけど」 ニヤリと笑う達己は、 やっぱりちょっと危険な香りがするオオカミっぽい。 通りすがりの赤ずきんちゃんさえ 「食べられたい」って思っちゃうような。 このパークの中でしか味わえない非日常的な感じが、私の高まった気分をさらに高めてくれる。 そうだ、思い出した。 前回一緒に来た人とは、 アトラクションの待ち時間の会話が全然弾まなくて、 そのうち、何を話しても、噛み合わなくなって、 彼がどんどん投げやりな態度になっていくから、 結局、夜になる前にパークを出たんだった。 その時、「ディズニーリゾートにカップルで行くと別れる」ってジンクスを痛感したことがあったっけ。 でも、達己と一緒だと、違和感なんて全然ない。 どうして私のことが分かるんだろうって思うくらい、 ちょうどいいタイミングで、私の欲しい言葉をもらえる。 疲れたら休憩して、 お腹がすいたら、軽食を食べて。 長い待ち時間さえ全然退屈しなくて、たとえ会話がなくても、ちょっと顔を見上げれば、オオカミが微笑んでくれる。 その度に、胸がキュウっと締め付けられて、幸せな気分が溢れてくる。 リードしてくれる手は優しくて、 だけど、ちょっと意地悪で。 その意地悪が心地よくて。 やっぱり達己と一緒に来れて良かったって、心から思える。
/29ページ

最初のコメントを投稿しよう!

113人が本棚に入れています
本棚に追加