静かなる侵略

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男は眩しさに目覚めると、屋外階段の踊り場にいる。まただ。 そして、耳の裏に違和感があるのも、またのことだ。 隣では、会社の同僚の松井が目覚める。 二人ともまた徹夜してしまったらしい。 見ると、遠くで巨大な球体が輝いている…。 踊り場から通じているドアを開けると、いつもの会社の風景が広がる。 同僚達もいつもと変わらぬ態度だ。 男は、会社には内緒にしている、抗うつ剤をこっそり飲む。 気づけば、松井の様子が何か違う。 疲れていないようだし、仕事も感情的ないつもと違って淡々と素早くこなしている。 一方、しばらくぶりに家庭に帰れば、妻がいつものようにご立腹だ。娘からは相変わらず無視される。 そして、また階段で松井と一緒に目覚め、徹夜を悔いる。 見ると、巨大な球体は以前より近づいてきているように思える。 男は、耳の裏の違和感を気にしていじっていると、中から異物を取り出す。金属片のようだが、見たこともない物質だった。 そんな日々が続く中、ある日、松井は昇進する。 男は、そんな松井の耳の裏に凹凸があることに気づく。 久しぶりに家に帰ったら、なぜか妻が怒っていない。 娘も、無視を通り越して、まるで無感情になっている。 家庭では会話がすっかりなくなり、どんどん冷えているように思える。 自分の気のせいか。会社人間である男が愛想をつかされたのか。 抗うつ剤の副作用なのか。 ただ、妻も娘も、耳の裏をしきりにいじっているようだ…。 男がいつものように階段で目覚めると 他のビルの階段にも同じように目覚める人がいることに気づく。 そういう人が、日に日に増えていく。 見ると、巨大な球体はすぐ近くに迫ってきているように見える。 ある日、遂に、屋外階段に立つ無表情の人たちが、群れをなして街を歩き出し、巨大な球体が放つ光に向かっていく。まるで吸い込まれていくように。 男は、恐ろしさを感じ、副作用でも良いからと抗うつ剤を飲み込んで、一人その光景をただ見送る…。
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