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……コロコロコロ、コロ、コロ、コロ……
コオロギみたいな声でスマホが鳴きはじめた。
口の中がアホみたいに乾いている。
ギシギシと身体が軋む。
テレビ画面の中では、楽しそうな顔でゲームの主人公が突っ立っている。
あぁ、昨日、ゲームやりながらこたつで寝落ちしたのか。
ようやく状況を把握して、スマホへ手を伸ばす。
アラームを止めて、時間を見る。
8時半。
今から大学に走れば、1限目の「哲学」に間に合う。
もし間に合わなかったら、オレの留年が決定する。
今日は大事な日だ。
だからオレはいくつもアラームをかけておいた。
だけどオレってやつは、ほとんどのアラームを無視して、最後のアラームにだけに反応した。
しっかりしてるんだか、していないんだか、いっそのこと全部無視して寝過ごした方がわかりやすいし諦めもつく。
一昨日から風呂に入っていないせいで、身体から異臭がする。
乾いた口の中も、ドブみたいに臭い。
シャワーを浴びて、歯を磨いて、着替えて家を出ると、1限目に間に合わないだろう。
人間としての最低限の尊厳を守るために、身なりを整えて大学に向かうと「哲学」の単位を落とすのだ。
そして留年する。
しかし、人間としての尊厳を捨てて、臭いまま大学へ走れば「哲学」を履修し習得できる。
その場合、無事に3年にはなれるが、おそらく大切な何かを失う。
これはなんと「哲学」的な問題なのだろう?
この問題を考えるためには、もう少し睡眠が必要だ。
こたつの中で寝返りを打って、現実逃避に向けて二度寝の体制を整えた。
何か軽いものが手に当たった。
まさぐってみると、見覚えのない茶色い封筒がこたつから出てきた。
「なんだこれ?」
のり付けされた茶封筒をビリビリと開けると、中から1枚の便箋が出てきた。
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