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第58話 まさか、誘拐
竹澤さんの結婚式があったあの土曜日と翌日の日曜日、もうイヤというくらいたくさん愛をいただいたのに、1週間経てば先輩の温もりは肌から消えてなくなり、また寂しさに堪える日々に戻ってしまいました。
平日はまだしも、週末は時間が有り余っています。ジムへ行くか部屋の掃除をするくらいしかする事がありません。
モテカワガール達は海に山に川にとフルで夏を満喫しているというのに、私なんて川辺の幽霊のように存在感のない日々……。
ライン来てないかなぁ……。電話来てないかなぁ……。ピッ。
ライン電話ナシ。
ずーん。ずもももももぉーん……ズズズズ……。
「ダメダメダメぇーーーっ!」
いけません。このままでは腐ってしまいます。待つだけの時間なんてもったいなさすぎます。こういうところが子供なのだと竹澤さんにも言われたじゃないですか。
同じ轍は踏めません。その先に待っているのが破滅ならば尚更です。
先輩に依存しきるのではなく、1人の時間もちゃんと過ごせるようにならなくては。それが自立した大人ってものですよね……。
と、いうわけで。
「よしっ!」
パーっと街に出て髪型を変え可愛い服を買いに行きます。今度会った時に前よりも可愛いって褒めて貰えるように。
彼女という立場に胡坐をかいててはいけないのです。ただでさえ私は凡人凡子で先輩はイケメンエリート ステキ男子なのですから。
常にかわいい女子達から狙われているのですから。
「ゆるふわ愛されモテカワパーマガール(夏)にしてくださいーっ!」
絶対可愛いって言って貰うんですっ。前よりも可愛いって。まずは基本の髪型から変身を――。
「なんじゃこりゃあああああああー!?!?」
ゆるふわ愛されモテカワパーマガール(夏)のはずが、何故かボンバー頭になってしまったではありませんか。
誰がどう見ても化学爆発頭です。もこもこしています。ソバージュとかにはとても分類できない代物です。ステキな洋服よりも試験管と白衣がよく似合うでしょう。
「失敗して申し訳ございませんっ! ストパーは髪のためにもすぐにはかけられないので1週間から2週間は我慢していただいてお直しを……!」
こんな髪で2週間だなんて、生き恥もいいところ。すれ違う人が皆、私を見ているような気がします。
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