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「瀬野さん?」
お手洗いで髪を整えて廊下に一歩出ると、小首を傾げた可愛らしい声に呼び止められました。
竹澤さんを好きかもしれない蔵元芹那先輩です。新入社員の頃は……いえ今も本当によくお世話になっています。
程よい丸顔に垂れ目、ぽってりとした薄桜色の唇、ゆるやかに巻かれた茶色の髪。親切で、喋り方はゆっくりとお淑やかで、それでいて聡明。余裕が身体中から滲み出ています。色気もです。
おっぱいやお尻はかなりいい感じについていて、何と言いますか、下品な色気ではなくほのか漂う色気なのです。いかにも男性が理想とする女性という感じで。
「あら? お尻からティッシュペーパー出てるわよ?」
「ぎゃっ!? 本当ですか!?」
慌ててお手洗いに巻き戻り、鏡の前に自分の姿を映し出してみましたが、特にティッシュペーパーは出ていませんでした。
あれおかしいなと思った時にはもう遅いのです。これは、蔵元先輩が私をお手洗いに連れ込む口実でした。
「おいコラ、てめぇふざけんじゃねぇぞ」
え?
「何勝手に竹澤さんに近づいてンだ? ン? 足捻挫した、だぁ? そんくれぇ湿布しときゃあ治るだろ? あ? 何竹澤さんに担がれてるんだよ? 何車に乗ってやがんだ? エ? オラ、聞いてんのか? 指すっ飛ばすぞワレェ」
誰このヤクザ?
突然の任侠モードに、口をあんぐりと開けたまま立ち尽くすしかありません。
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