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彼女は眉間に深い皺を寄せ、ガンを飛ばしながら続けます。
「てめぇ、今度近付いてみぃ?痛い目遭わせたるでな?」
「……い、痛い目とは……?」
ついつい怖いもの見たさで聞いてしまいました。
「you die」
商社勤めらしい綺麗な発音と、首を斬る恐ろしい仕草です。まさかまさか本当に首ちょんぱされるわけないでしょうが、先輩ですし、上からの信頼を勝ち得ていますから。怖いですから。
その気になれば私など、人事から追い出す事も出来るかもしれませんから。
しかし、殺すぞワレと言われましても、彼を想う気持ちは小さくとも確かに成長しているんです。
それをどうやって止めたらいいのか分かりませんでした。
「フン。まぁいいわ。あれだけの男ですもの。女は蝿のようにブンシャカブンシャカ寄って来るからね」
いつものお淑やかな蔵元さんが戻って来ました。まるでスイッチを押すようにコロコロとキャラクターが切り替わります。
ホッとするのも束の間で、彼女は私に驚くべき事実を告げたのです。
「ひとつ、教えてあげる。竹澤さんはね、社長の娘さんと私的にお付き合いしていらっしゃるのよ。何のためにかって? 香月社長は彼を自分の身内にする気なのよ」
がつんと……それは頭を鈍器で殴られたような衝撃でした。大きな大きな衝撃でした。
ご令嬢プラス私的なお付き合い。
イコール結婚?
最強の方程式の出来上がりです。
雲上人。やはり、そうなのでしょうか。
彼は好きになってはいけない人だったのでしょうか。
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