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片桐先輩が指定した八兵衛というお店は、男女がデートに利用するような洒落たお店ではありませんでした。仕事終わりのおじ様方が一杯ひっかけていくような、お気楽なお店です。
店内は焼き鳥の白煙で曇りがちで、私はそれを手でかき分けながら奥へと進みます。
片桐先輩は煙草を燻らせていました。煙草を吸う時、眉間に皺が寄るタイプらしいです。普通に怖いです。
「おう、来たな」
ぐにぐにと煙草を押し潰して私を向かいの席に迎え入れてくれました。
「まぁ座れ。ナマ中でいいだろ?」
「ナマ中だなんてっ」
「はん? お前ビール飲めんかったっけ?」
「いえ、ナマ大でお願いしたいんです。あっ! すいませーん! ナマ大ふたつー下さーい! たこわさと子持ちししゃもも下さーい!」
私、結構なのんべえなんです。酒豪の父の血を真っ当にひいたのでしょうね。ナマ大も瞬殺してしまいますから。カクテルで酔っ払う可愛らしい女にはなれませんから。
「それで、片桐先輩。今日は私なんか呼び出して、何かあったのですか?」
意図が不明なのは気持ちが悪いので、ナマが来るなり早々と切り出してみました。
「お前透さんが好きなんだろ」
「げぼぉっ!」
あまりに単刀直入に言われ吹き出してしまいました。
「な、なんでですかっ!?」
「前からずっとバレバレだよ」
「……サヨウデゴザイマスカ」
「お前まさか透さんと付き合えるとか思ってる? 透さんと言えば頭脳明晰、冷静沈着、眉目秀麗、語学堪能。新旧いくらでも逸話が出て来る我が社のカリスマだぞ。あまりにハイスペック過ぎて公安の回し者とかターミネーターとかあだ名がつくくらいの人だぞ?」
竹澤さんの数々の逸話はアーサー王の伝説が如く語り継がれています。
そんなカリスマに惚れてしまった平凡平子。哀れむような視線を投げられてしまいました。
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