第3話 土曜の葬式

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お部屋の中ですか。 カビのにおいと古い畳のにおいがする和室でした。壁には安物の絵がかかっていて、小さな冷蔵庫と申し訳程度にテーブルセットもあります。 お手洗いとバスルームは部屋についていました。これは救いですね。 万が一吐き気を催した時にトイレがなかったら困りますからね。 とにかく狭かったです。何せ本来はお1人用の部屋ですから。私達はそこにお布団2組敷こうとしているのですからもうとんでもありません。 「ぎゃ!? しっかりして下さいっ」 部屋に入るなり、竹澤さんは畳の上に倒れこんでしまいました。まだ床には何も敷かれていませんし、喪服姿のままです。 「あのっ! 顔に畳のアトついちゃいますから……上着もシワになりますからっ……!」 流石に大人の男の人を着替えさすわけにもいかないので、上着とネクタイだけ外してさしあげました。上着をハンガーに掛けたら、そーっとそーっとシャツのボタンを開けていきます。 普段はきっちり閉ざされている首元が眼前に晒されました。喉仏は大きく出ていて、よく見ると顎のあたりに髭も生えています。 髪がくちゃくちゃになって目にかかっています。ぐでんぐでんで無防備に眠っていても、竹澤さんは異様に品がありセクシーでした。 私は彼をじっくりと眺めながら感動したり愛おしく思ったり興奮したりしながらも、これが男女逆だったら身の保証はないんじゃないかと、ようやく事の重大さを認識したのです。 「あわわわ……!」 布団を敷いて彼をそこに寝かせると、慌ててコンビニに走りました。 え? 何を買うかって? 決まっています。 アレです。 歩いて20分以上もあるコンビニでアレを買い、戻りました。 アレって何って? 下着です。同じ下着を2日も履き通すのは可憐な乙女のポリシーに反しますからね。 どうせなら少し話したかったなと、残念に思いつつ、起こしたら悪いので電気を消してホテルの中の温泉に向かいました。 温泉と呼ぶにはあまりにおこがましいお風呂でしたが、身綺麗になれたのでよしとしましょう。
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