第3話 土曜の葬式

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再び部屋に戻り、真っ暗な部屋の中を泥棒か空き巣のようにそろそろとつま先で歩きます。 「し、し、し、シツレイします……」 小さく断って、竹澤さんのお布団の横にドキドキしながら潜り込みました。 普段は横向きになって眠る私ですが、天井というか暗闇の中の一点を悶々としながら見つめていました。 好きな人の無防備な姿を横に悶々とする。 これじゃあまるで思春期の男の子ではありませんか。しかしお布団2組といえど、境目は曖昧ですから。区切りはあってないようなものですから。 彼がほんの少し動こうものならばその都度、海老のように跳ねていた私にも眠気は順当にやって来ます。 あぁ、眠ってしまう。 体も何時の間にか横向きになっていました。普段の睡眠時の体制です。 事が起こったのは、眠りに入るか入らないかという所でした。 背中に気配を感じ、はっと目を開けたのです。ちらっと振り向くと、なんと竹澤さんが私のすぐ後ろにいるではないですか。 体がほとんどくっついている状態でした。 人は驚くと声も出なくなるようです。 何が起こっているのか、はたまた夢なのかと混乱しながらも固まっていると、体の上にのし掛かられました。 「え!?」 客観的に見れば、私が上司に襲われているように見えるような格好でしょうか。体重を、体温を感じます。 「あ、あのぅ……?」 彼の目は確かに開いていました。しかし、どこかぼやけた眼差しで私を見下ろしているのです。 もしかしてこの人酔って寝ぼけてるんじゃあ。いや、さっきまでの酷い酔い方を考えればそれ以外あり得ません。 そう思った刹那。 「んっ!?」 キスが降って来たのです。 信じられません。しかし冷たい唇の感触とともに、数時間前に飲んだお酒の味がしましたから、夢ではありません。頭は冴えに冴えています。これは現実です。 「た、竹澤さんっ……!?」 唇を離し声をあげてみたものの、つゆほどの効果もありませんでした。
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