第3話 土曜の葬式

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昨晩の嵐が全部嘘だったと言われても疑わない程に、翌日の空は青く綺麗に晴れ渡っていました。 私はあの後どうしたかと言いますと、明るくなった時分、そっと部屋に戻りました。起きた時に1人きりだと、戸惑うと思ったからです。 竹澤さんは本当に気持ちよさそうに眠っていて起こすのは忍びなかったのですが、8時になると同時に声を掛けました。 「竹澤さーん、おはようございまーす」 全っ然起きないんですけど。揺すってもダメ、つついてもダメ、耳元で歌ってもダメ。お手上げ状態です。 もしかしたら機械音の方がいいのかと思い、爆音でアラームを鳴らしてみると、 「ん……」 目を醒ましました。 私、竹澤さんを起こすという今後一切役に立たないであろう技術を習得しました。 ぱちっと目を開けると、起き上がり、わけが分からなそうに周囲を見渡してから私の顔を見ました。 その表情にほんの少し、落胆の色を見ました。 当然です。夢から醒めたのですから。かえでだと思っていた人がただの部下だったのですから。 心の中を思うと残酷で切ないですが、可哀想だとはちっとも思えませんでした。多分、私は嫌な女です。 「瀬野さん……? 何でこんなところに……」 状況が把握出来てない竹澤さんに説明しました。頭が痛むのか、こめかみあたりを押さえながら話を聞いていらっしゃいます。 「……本当にごめん、よく覚えていなくて……」 難しい表情から、上司と部下が同じ部屋で一晩過ごした事実に懸念を抱いているようです。だから私は何か問われるよりも先にお伝えしました。 「竹澤さんすぐ寝ちゃって、背広を脱がすの大変だったんですよ? あ、良かったら下着とシャツコンビニで買ったから使って下さい。あと二日酔いどめソリンクも抑えときましたよ!」 何ごともなかったかのように振る舞いました。言いました。あなたは昨晩すぐに寝て今の今までそのまだったんだ、と。 だって、上着は脱いでいますが、それだけですもの。 状況的に判断すれば、疑う余地はないのです。 そうではありませんか、竹澤さん。
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