プロローグ

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数ヶ月の研修を経て東京は千代田区にある本社の、人事部人事課に配属されました。 勤務初日、不在の課長様の代わりに挨拶をされたのは課長補佐で新卒・短大採用責任者の竹澤透(たけざわとおる)さん。 「課長補佐の竹澤です」 衝撃を受けたのは、絶対に私だけじゃないはずでした。 身長は180センチそこそこくらいでしょうか。細身の長身をスリムでセンスの良いブルーのスーツに包んでいらっしゃいました。 時々はらりと目にかかる前髪。シャープな顎とすっと通った高い鼻。目と眉が近く彫りが深い端正な顔立ちは映画俳優さんのよう。 品性と清涼感と色気の三位一体。それから、青色とも灰色とも言い難い瞳が、竹澤さんをより一層魅力的にしていました。 「ヒト、カネ、モノ。経営資源と呼ばれるものの中で皆さんにはヒトの部分を担っていただきます。当社を更なる高みに導く大切な仲間探しです」 表情や口調は終始柔らかくも、涼やかな瞳の奥に私達を値踏みするような冷たさも持っていました。 この人Sだなと、そこがまた小娘のツボだったのは間違いありません。 社会人として始まったばかりで気を引き締めていかなければならない身分なのに、こんな素敵な男の人が自分の上司になってしまい仕事になるのかと心配になります。 「それから、ひとつ頭に留めおいていただきたい事があります」 全員を見渡します。 「我々が世の中から求められているのは、当たり前の事を当たり前にやるのではなく、世の中を主導する機能です。すなわち、皆さんには新しい仕組み、新しいものを作る第一人者になっていただきたい。現状にあぐらをかいている人は要りません。人事であっても営業であっても、1年目でも10年目も同じです。いいですか、今は既に過去ですよ」 言葉は峻烈で魂が宿っていました。 だからこそ聞く側の心を揺さぶったのです。 心を奪ったのです。
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