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第5話 真実を捻じ曲げる
私の仕事について、あまりお話していなかったですよね。
私は日本商事の東京本社は人事部に所属しています。
私達は上司から降りてくる採用計画を元に説明会の開催、大学訪問、ワークショップ開催、エントリーシートの選別、ウェブテストの受験の段取り、3度ある面接の調整、合否の通知、入社書類の送付等、採用にまつわるお仕事をしています。
人事部の中には他に総務課と管理課と人材開発課があります。実はもっともっと複雑なのですが、説明くさくなるのでこれくらいで。
商社人気が落ちてきたと言えどエントリーは万単位あるので決して楽なお仕事ではありません。
何より人事は会社の顔です。
蔵元先輩や片桐のアニキをはじめ、ここに美形が多いのはそういう理由なのです。まぁ美形ばかりでは引けるので、私のように安心感を与える大阪のおばちゃん的要員も混ぜられるわけなのですが。
土曜の葬式から既に1ヶ月近く時間が流れました。
竹澤さんとはどうなったかって? いえ、特に何もありません。通常通りです。上司と部下です。
仕事に忙殺される毎日です。1年中、何かと忙しいのです。
特に今朝はバタバタしていました。
そういう忙しい時程、ミスをしちゃいけないと気をつけている時程、狙ったようにミスしてしまうものなのですね。
今日は何だかぼーっとしてしまっていて……いえ、体調のせいにするのはフェアではないのでもう言いません。
「瀬野さん、こんな間違いするなんてらしくないよ。もう新入社員じゃないんだし、社の信用に関わるから、気をつけて下さい」
「は、はい! すみませんっ! 以後充分気をつけますっ! 申し訳ございませんっ!」
しょぼーん……。
竹澤さんに怒られてシュンとしてしまっています。
くどくど言うタイプではないのでスカっとしたものですが、その日は怒気の具合がほんの少し強かったように感じました。
今更新入社員のような注意をする側の身にもなれって話なのです。
実は今日、課の飲み会なんですよ。
久しぶりに竹澤さんも参加されるのに、何だかとても重苦しい気分です。
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