第5話 真実を捻じ曲げる

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「カンパイ!」 私達の課は社員同士の親睦を深める目的で2ヶ月に1度全員参加の飲み会が開催されます。近所の居酒屋さんの広間を貸し切って、皆でわいわいがやがややるんです。 「おい、瀬野。飲めや」 寄って来た片桐先輩は今夜も私を狙い打ちです。 「いっただきまーす」 ですが、私だってザルを自称しているんですもの。泡盛だろうがテキーラだろうが、潰れるわけにはゆきませんもの。 「そういえばさ、今日透さんお前に怒ってただろ。あぁいうの珍しくねぇ?」 「そうですか?」 「いつもと違うかなぁって……まぁ、なんとなくだけどな」 竹澤さんは感情を外に出さないタイプです。何を考えているのか、人に読ませないような所があるのです。 が、確かに今日は明らかに怒ってるな、と思うような怒り方をされました。 それだけ私のミスがつまらなかったのでしょうね。 ミスは時に会社の沽券に関わる場合もあります。 部下のミスは上司が責任を取らなくてはいけなくて、だから余計に気をつけなければいけないのに……私ときたら。 ああ。 せっかくの楽しいお酒の席なのに、気持ちが沈んでいきます。竹澤さんは毎度のことながら、女性に囲まれてて近づけるような雰囲気でもありませんし。 「アニキ、私ちょっとお手洗いに……あれ」 立ち上がった瞬間ぐわーん、と世界が回転したように感じました。 「っとっと、アラララ……?」 「お、おい瀬野大丈夫か。……おいっ!?瀬野――」 アニキの声が遠ざかってゆきます。 おかしいですね。 ザルの私が酔っ払うなんてあり得ないのですが 。
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