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竹澤さん、私を見て呆れていました。
だってカエルみたく無様にひっくり返ったんですもの。どうせ倒れるなら、もっと可愛らしく倒れられなかったものでしょうか。
まだ怒ってるかな。使えない部下を持ってげんなりしてるかな。
とぼとぼ。
「えき、えき」
あら? 駅はどっちだっけ?それよりもここどこだっけ? エ? アレ?
「ちょっと! 瀬野さん!」
「へ? ぎえええええええーーー!?」
竹澤さんじゃないですか。
「だから何なの、そのオバケでも見たような反応は……」
カラオケ行ったはずの竹澤さんが。呆れて怒っていた筈の竹澤さんが。
ここにいらっしゃる。これが叫べずにいられますか。動揺せずにいられますか。
「あぅ……か、からお……からからお……」
「からお? あぁ、カラオケ? カラオケ嫌いだから。それより足下めちゃくちゃフラついてたけど大丈夫なのか? 駅、そっちじゃないよ?」
「だ、だいじょうぶですよ。ほら、フヒヒっフヒヒっ!」
今日はただでさえご迷惑おかけしましたから。これ以上心配されるわけにはゆきませんから。竹澤さんは微笑んでいる私を見て、目をぎゅぅーっと細めています。
「その笑いだけは信用出来ないな……」
「いえ、ほんとーに大丈夫ですから、たけざわさんはカラオケいってくださ」
言い終えるよりも先に、腕をがしっと掴まれました。
「いいから行くよ」
そうして私を強引にひっぱって行きます。道路側で列を作っているタクシー乗り場の方へです。
「へ、あ、あのぅ……?」
もしかして一緒に乗って下さるのでしょうか。 それともタクシー放り込んでさようならでしょうか。
「君に何かあったら困ります。家までちゃんと送り届けます」
「い、一緒に帰って下さるのですか……?」
「うん」
嬉しい。嬉しすぎます。最近の私、ついてます。
酔ってフラフラなのに、胸はどきどきと音をたてています。
それにしても、と私は心の中でひっそり問いかけます。
君に何かあったら、それってどこ目線なのでしょうか。
上司の目線。やっぱりそうなのでしょうか。
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