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指先が頬にかかります。くちびるがそっと重なり、ついばむようなものからだんだんと深いものへ変わっていきます。
角度を変えると、時々視線が宙で絡み合いました。
「……せんぱい……」
もう、とろけそう。
このまま。
と思ったその時、先輩の胸のあたりから振動が伝わって来ました。
電話です。
すみれさんだと直感が走りました。
「邪魔」
先輩は携帯の電源を切って向こうに放り投げると私をベッドまで連れて行ってくれました。おでことまぶたに何度もキスを。
ちゃんと私を優先してくれました。
でも、何故だか今日はまだ足らずに更に求めてしまったのです。
「……私の事、名前で呼んでください……! 今まで一度も呼ばれてないですっ……」
すみれさんは名前で呼ぶのに、私はいつまで経っても苗字。
何の意味もない事にまでこだわり始めている私。
「はぁっ? 何で今更……」
「……お願いしますっ……! 誕生日のプレゼントとして言ってくださいっ……!」
でも、聞きたかったのです。
先輩の声で聞きたかった。
「……愛……香……」
ぽつりと一言。
ぱあああっと明るくなり、心の中のお花畑でタコ踊りが始まった刹那、先輩の頬がぼうぼうと赤く染まりました。
「ぎゃぁぁああぐあああああああ! やめろやめろやめろやめろやめろきもいきもいきもい! 犬コロみたいな目して何言わせやがんだテメーは!?」
「え! 名前くらいでなんでそんな!」
「うるせぇ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ! こんなのマジで俺のキャラじゃねぇ! 二度と言わん!」
「えーっ! しょんなー!? 二度と言わないんですか!? しょんなーしょんなーしょんなー!」
「ピーヒャラピーヒャラうるせぇんだよお前は!」
ベッドに倒され唇が重なり今度こそ先輩の中に落ちていきます。
次に目覚めた時にはもう、不安だった気持ちは消えていました。
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