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堪えていたのですが、堪えきれずくしゃみが出てしまったではありませんか。しかもかなり男らしい一発が。女子として恥ずかしい事この上ないです。
「ふふ……面白いくしゃみするんだね。大丈夫?」
こちらに振り返って、かすかに笑った顔が綺麗でした。綺麗という表現がしっくり来る男性なのです。ぱっちりくっきりとした二重ではありませんが、切れ長でミステリアスな目に見られると、我を失いそうに。
上司に見惚れていたこと、くしゃみの恥ずかしさでどんどん顔が赤くなってしまいます。
「あの、あの。はい。えっと……私も探しますーっ!」
「そう? じゃあその辺りお願い。気をつけて」
「はいっ!」
照れ隠しの為、私もパソコンの捜査にあたります。張り切って脚立を持ち出して、登ったのはいいのですが、そういえば私高所恐怖症だったんですよね。
ふと足元を見て現実に戻りました。
高っ!?
ひぃー!? とかなんとか情けない声をあげて、脚立から落っこちました。どすーん!と酷い音をたてて。
「瀬野さんっ!?」
竹澤さん、すぐに駆けつけてくれました。手を貸してくれました。
正直、痛みはよく分かりませんでしたが、ぼっこりと腫れあがった足の甲。その世にも恐ろしい腫れ方を見た瞬間、子どものように大声で泣き叫びたい気分になりました。
勿論堪えました。竹澤さんの手前です。
「ちょっと、大丈夫? なんか凄い腫れてるけど……」
「だ、大丈夫でし……!フヒっフヒヒ……」
笑った私を見てため息をつき、決心したようにつぶやきました。
「……大丈夫じゃないね。病院行こうか」
「い、いえいえいえい、でも」
「いいから行くよ!」
「ぎゃっ、ぎゃーーーーーー!」
腕をぐいと持ち上げ、肩を担がれるような格好になりました。
「ぎゃーじゃないよ。掴まって」
歩き出すと香水の香りが近くて、顔も近くて、もはや足の腫れどころではありません。
なんてこと、なんてことなのでしょうか。
通りすがるギャラリーの視線(主に女子)が猛烈に痛いのです。
「あ、蔵元さん。急病人なので、僕が病院まで連れて行くから」
「え? は、はい……」
人事課の先輩の蔵元芹那さん。
噂では竹澤さんが好きだと……私、そんな方に軽く睨まれてしまいました。
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