第1話 竹澤さんについて

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堪えていたのですが、堪えきれずくしゃみが出てしまったではありませんか。しかもかなり男らしい一発が。女子として恥ずかしい事この上ないです。 「ふふ……面白いくしゃみするんだね。大丈夫?」 こちらに振り返って、かすかに笑った顔が綺麗でした。綺麗という表現がしっくり来る男性なのです。ぱっちりくっきりとした二重ではありませんが、切れ長でミステリアスな目に見られると、我を失いそうに。 上司に見惚れていたこと、くしゃみの恥ずかしさでどんどん顔が赤くなってしまいます。 「あの、あの。はい。えっと……私も探しますーっ!」 「そう? じゃあその辺りお願い。気をつけて」 「はいっ!」 照れ隠しの為、私もパソコンの捜査にあたります。張り切って脚立を持ち出して、登ったのはいいのですが、そういえば私高所恐怖症だったんですよね。 ふと足元を見て現実に戻りました。 高っ!? ひぃー!? とかなんとか情けない声をあげて、脚立から落っこちました。どすーん!と酷い音をたてて。 「瀬野さんっ!?」 竹澤さん、すぐに駆けつけてくれました。手を貸してくれました。 正直、痛みはよく分かりませんでしたが、ぼっこりと腫れあがった足の甲。その世にも恐ろしい腫れ方を見た瞬間、子どものように大声で泣き叫びたい気分になりました。 勿論堪えました。竹澤さんの手前です。 「ちょっと、大丈夫? なんか凄い腫れてるけど……」 「だ、大丈夫でし……!フヒっフヒヒ……」 笑った私を見てため息をつき、決心したようにつぶやきました。 「……大丈夫じゃないね。病院行こうか」 「い、いえいえいえい、でも」 「いいから行くよ!」 「ぎゃっ、ぎゃーーーーーー!」 腕をぐいと持ち上げ、肩を担がれるような格好になりました。 「ぎゃーじゃないよ。掴まって」 歩き出すと香水の香りが近くて、顔も近くて、もはや足の腫れどころではありません。 なんてこと、なんてことなのでしょうか。 通りすがるギャラリーの視線(主に女子)が猛烈に痛いのです。 「あ、蔵元さん。急病人なので、僕が病院まで連れて行くから」 「え? は、はい……」 人事課の先輩の蔵元芹那さん。 噂では竹澤さんが好きだと……私、そんな方に軽く睨まれてしまいました。
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