上司に恋しています。

第2話 俺様系男子の策略

食べちゃ駄目と言われた物を食べた事はありませんか？
しちゃ駄目と言われた事をした事はありませんか？
私は今まさにその状態です。

竹澤さんが人のものであると分かったのに、冷めるどころか一層恋い焦がれてしまっています。
かれこれ3日近くお見掛けしていません。それもまた恋心に拍車をかけているかもしれません。

『瀬野さん 課長に折り返しお願いします 竹澤』

これは竹澤さんが書いた私宛の最新のポストイットです。サラッと書いたに違いありませんが、流れるような達筆です。文字からも知性や品性が滲み出ています。

非常にきもいのですがポストイット達は捨てず、貯め続けています。コレクションです。宝物です。
彼の肉筆を見返しては瞼の裏に残っている残像を頭に描き日々を送ります。
とても苦しいです。声が聞きたいです。どうしようもありません。

どこかしょぼしょぼとしている私を横目で見て笑っているのは先輩の蔵元さんですが、大っぴらに笑って寄越す男性がこの課に1人いるではありませんか。

「何だお前？ 朝っぱらから辛気臭い顔しやがって。顔洗って出直して来い」

以前に、正統派の俺様系男子がいるとお伝えしました。
片桐宗佑(かたぎりそうすけ)さん、この人こそがそれです。

雲をつくような長身と元ラグビー部らしいがっちりとした体躯。前髪をワックスで後ろに撫で付けています。オールバックというやつです。

逆三角形の輪郭に三白眼に鷲鼻ではあまり人相がいいとは言えませんが、ご本人は攻撃的なマスクを大変気に入っているようで、表情はいつでも溌剌としています。

目力が強く睨まれたらつま先から固まってしまいそうですが、とっぽい男前です。

流行のブランドスーツに合わせるネクタイは赤やオレンジなどの派手目なものが多く、でもそのネクタイの柄はよく見るとへんてこりんな柄やキャラクターで、遊び人風な所もあります。

ただ、キャメルの靴と、なんとかというブランドの腕時計のセンスが良くて感心してしまいます。
採用チームのサブリーダーで竹澤さんが不在の時は取り仕切るので、上司ですよね。