第1話 忘却の始まり

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「それでも、人間界がより良くなるならばとボクの仲間たちは笑顔で命を落としていった。だが、実際のお前たちはどうだ? 戦争は続き、犯罪は絶えない世界。こんな世界のために、ボクたちは生まれたんじゃない」  天使は僕たちを卑下するような目で見る。 「だから、ボクは行動を起こした。君たち人類全員に幸福の重さを、身をもって知ってもらうために……この幸福の忘却を計画し、実行に移した。これから何年、何十年かかろうとも、教え込んでやる……そう、【幸福の忘却】の中でね」 「幸福の……忘却?」 「ボクが奪う側で、君たちが奪われる側。ただそれだけのゲームさ」  天使はゲームが始まるのが楽しみで仕方ないという様子だった。  それに対し、人間側の表情は恐怖と不安で引きつっていた……僕以外は。 「君たち下等生物(にんげん)は愚かだ。愚かだから忘れ続ける生き物だ。都合の悪いことを忘却し続け、目を背け続け……そして何も進化しない。愚かな下等生物に許された選択肢は……ここで首を落とされ、腹を裂かれて絶命する生命の放棄か、自らの有り余る幸福を捨て、自らを不幸に貶め……幸福を忘却すること」  天使の言葉など耳に入らなかった。  確かに恐怖はある。不安もある。できればさっさとこんな部屋から抜け出したい。  けれど、僕はこの天使に憧れている。容赦なく全てを奪う天使の姿に。     
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