第2話 幸福の重み

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「え、牧島さんそんなあっさり……」 「何よ、いつまでも悩んでたってしょうがないでしょ。あたしは1秒でも早く現実世界に戻りたい……あたしは皆に必要とされる人間、これ以上無駄足は踏めない」  牧島は冷たい声で真名を突き放すように言った。 「随分と思い切りが良いね。肝の据わった人間は好きだよ」 「あたしはこんなところで……死ねない。死んでいい人間じゃない」 「じゃあ、宣言してもらおうか、牧島 唯。君の忘却する幸福を」  エルの声と共に背後の黄金の天秤の輝きが増す。  これから起こることが、幸福の忘却なのか。 「あたしは……」  牧島は一瞬口を動かすのを躊躇ったが、それも一瞬だった。 「家族、青春、友情、全てを犠牲にして樹立してきた全ての陸上の記録を、忘却する」
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