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「はは……すごい自信だね。また走り出せばいい……か。前向きでいいじゃないか、人間という生物を少し見直したよ」
エルは馬鹿にしたような拍手を牧島に送った。見直したようには見えない。
「では、この光り輝く【審判の天秤】の前に立って念じてくれ。今までに経験した幸福を」
エルの背後に控えていたのは審判の天秤。これで真栄田と牧島の幸福を測るようだ。
「待って、これを……持っていたい」
牧島はスクールバッグから袋を取り出した。
その中には、陸上の競技用スパイクが入っていた。やはり忘却することに少なからず動揺や不安はあるらしい。
「……始めて」
「では、始めよう! 幸福の忘却を……人類への報復を」
エルが高らかに宣言する。
その瞬間、牧島の手の中にあったスパイクが消え、一瞬で天秤の上に乗る。
そして、天秤が重い方……濃密な幸福の方へ傾き始める。
「っえ……」
その光景に僕を含めた人間は全員、驚愕した。
その光景は、予想とは全くの逆のものになったからだ。
「なんで……なんで」
最初に動揺の声を上げたのは牧島だった。
当然だ、なぜなら天秤が傾いたのは……真栄田のネックレスの方だったからだ。
「ああ、これは残念……3ポイントだ」
無慈悲にもエルが告げる。
牧島の人生のほとんどは、真栄田のネックレスにすら劣る3ポイント。
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