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その声は突然、冷たいものとなった。感情の無い、冷酷な声。
『だってさ、馬鹿だろう。生を与えられ、衣食住を与えられ、健康体を与えられ……どこが不幸なんだい』
「はっ、馬鹿な……そんなもの当然だろうが」
『世の中には、その当たり前が与えられない人間もいるのさ』
「説教か? そんな底辺と比較されても困る」
なんだ、人をからかったと思ったら今度は説教か?
『やっぱり、ね。君たち人間はボクらが救済するに値しない下等生物へとなり下がってしまったようだ』
「はぁ?」
『進化しろだなんて酷な話を下等生物に要求するほどボクたちも残酷じゃない。ただ、与えたものを返してくれればそれでいいんだ』
なんだこれ、本当にアニメか何かの録音か? そのくらい現実の見ないセリフばかりだった。
『ボクたちは君たちに幸運を与えた。だから、君たちにはそれをボクたちに返す……つまり、君たち自身の中から幸福を忘却し、返還してもらう』
「なにを言って……」
『大丈夫、その舞台はボクたちが用意しておいた。君たちはただ、幸福を忘却するだけでいい』
その瞬間、僕の視界は真っ黒に塗りつぶされた。
電気が消えたわけでもない、まるで僕の体内から眼球が消えたかのように辺りは闇に包まれた。
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