第六章 一騎打ち

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 しばらく、窓の外を眺めて黄昏(たそがれ)る。  心なしか、空に浮かぶ月が同じ黄色でプリンに見える。 「……しかし、あいつはどうやってここへ入ったんだろう? 僕が鍵を 掛け忘れるはずはないし……。窓からか……?」  賀陽は、窓を確認した。しっかりと鍵が掛かっていて壊れてもいない。 「ここからは、入れないよなあ……。やはり、玄関から入るかしかない……」  悩んでいるその時、脳裏にこのマンションを賃貸契約したときの記憶がフッと浮かび上がった。  ここは、駅の近くの不動産仲介会社ピンタイカンパニーで紹介してもらった。  こじんまりとした店舗で従業員数はそんなに多くない。  カウンター越しに、働く様子が見渡せた。電話を取ったり、書類を作成したり、それぞれよく働いていた。 「確か……、とても若い奴がいたな……」  若い従業員の顔が浮かび上がる。年の頃は、豪臥と同じぐらい。そいつがとても気になる。  賀陽は、店に行った時の記憶を呼び起こした。  従業員は、胸からIDカードをぶら下げている。  それを読んだ。 「若手従業員の名前は……、鴨山正樹……」  外に出て公衆電話を探し、電話を掛けた。 『はい、不動産の賃貸・売却のスペシャリスト集団。ピンタイカンパニーです!』  元気のよい声が響く。  賀陽は、豪臥の声真似を使った。 「鴨山はいる? 清水だが……」 『あ? 今度はなんだよ……』  急に、声が低くなった。  丁度、電話口に出たのが鴨山だったようだ。 「借りた合鍵を返す」 『さっさと頼むよ。会社にバレたら懲戒処分だ』  賀陽は、電話を切った。 「やっぱり、豪臥の仲間だったか……」  明日には部屋の鍵を変えようと決意した。
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